やまんばと

2018年6月からスイス・ジュネーブ在住。ヨーロッパの田舎、日本の地方をキーワードに発信。

ピレネー山脈の向こうはアフリカだった

かのナポレオンが言ったとされる言葉である。

ピレネー山脈は、フランスとスペインの国境に連なる山々で、古くはイスラムへの防波堤として機能してきた。イスラム文化との融合が見られ、その異国情緒さがアフリカという表現につながったという。4,000メートル級が当たり前のアルプスとは違って、高い山の多い中央部でも2-3,000メートル級と日本人的にはなじみのある山景色が見られる。

恐らく、日本からヨーロッパ旅行をしてあえてピレネー山脈に行こうと思う人はそんなにいない。スイスに住み始めてからの山好きが高じて、今年の夏はピレネーに!と思ったのだが、ウェブ上でもガイドブックでも日本語での情報が少ない。車で行くとなると皆無。事前の情報があまりないまま、山に近そうな小さな町に宿をとり、そこで情報収集することにした。行った場所は2つ。

一つ目がアルトゥースト(Artouste)。標高2000メートルの崖の上を走るプチトレインが有名な場所だ。まずは、麓からケーブルでプチトレインの発車駅がある標高約2,000メートルの地点に上る。その後、絶景を見ながら50分かけて湖近くの駅まで行き、ハイキングという行程だ。ケーブルカーとプチトレインがセットで往復大人30ユーロ以下とヨーロッパ価格基準からするとかなりお得。

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プチトレイン(左)と電車近くに寄ってくる人懐っこいマーモット(右)

もう一つが、ガヴァルニー圏谷(Cirque de Gavarnie)。写真を見ると滝の流れ落ちる大きな岩壁なのだが、「圏谷」とは、2万年以上前にあった氷河の浸食でできた地形を言うらしい。上部の幅は約3キロに及び、岩壁の高さは1.5キロもある。暖かい季節には雪解け水が作る滝が流れ、ヨーロッパで2番目に大きなガヴァルニ―滝もある。

ガヴァルニー村から滝がよく見えるホテル兼レストランまでは1時間あれば十分で、圏谷までは割と平坦な町で比較的歩きやすかった。しかし、滝を前にして下から眺めるだけでは満足できないのが人間の性である。レストランから何の舗装もない道を歩き、滝の近くまで滑る石に何度も足を取られながら慎重に登ること30分ほど。滝を間近に見ることができ、相当の迫力あり。

その後我々は何を思ったのか、平坦な道を戻るだけではつまらないと、”plateau de Bellevue”、日本語に訳せば絶景の高原を通る道をたどった。これが相当しんどく、細くて標高差がかなりある道をひたすら上る。上った先は確かに絶景ではあった。行きに通った道を眼下に見下ろし、遠くに圏谷、放牧された牛がならすカウベルの音も聞こえて風情がある。しかし、滝に近づこうとした道なき道の後のトレイルとしては相当しんどい。次の日の筋肉痛はつらかった。

 

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圏谷までの道(左)、ガヴァルニ―の滝(中央)、高原に行く道(右)

ピレネー山脈付近に2泊3日し、自然を大満喫した私としては、このピレネーハイキングは是非お勧めしたい。しかし、最初に触れた通り、日本人の中での人気はそこまで高くないようである。実際、スイスであればあちこちで聞こえる日本語も、ピレネーではほぼゼロ、アジア人自体がそもそも見られなかった。だが、スイスのユングフラウヨッホやマッターホルンと比べると、仕方ないと思ってしまうものがある。

まずは、ハイキングのインフラの違い。登山鉄道と整備された道…スイスにあってピレネーに十分なかったものである。スイスは物価が高いこともあるせいか、日本人観光客は高齢の方が多い印象を受けるが、高齢の方でもスイスを満喫できるのはやはりこうしたインフラあってこそと思う。例えば、マッターホルンであれば、麓の町からてっぺんまで登山鉄道で登って、途中の麓まで下ることができる。ピレネーは、ガヴァルニ―の麓までも電車はないので、バスか車。そこからは徒歩になるが、圏谷に近づけば近づくほど道が自然の道になってくる。個人的には、こうした手つかずの感じが好きではあるが、転びそうになってヒヤッとする瞬間もあった。

それから、おいしいレストラン。お昼はそれぞれプチトレインの終着駅にあるカフェとガヴァルニ―圏谷の近くの唯一のホテルレストランで食べたのだが、オプションがとても限られていた。スイスだと、ツェルマットやグリンデルワルト等、ホテルがあり、スイスの名物を食べられるレストランが並ぶ町がある。しかし、ガヴァルニーもアルトゥーストも、おいしくはあったものの、パニーニやサンドイッチ、バーガー等、メニューはありふれたもので、いまいちそそられず、全体的に惜しかった。

何となく、日本のトレッキング経験に近いのはピレネーなのだと思う。そして、どっちが良いかは完全に好みの問題だと思うが、観光客にいかにお金を落としてもらうかという観点から見ると、スイスの方がうまくできている、ということだろう。

単純に自分の旅程でそれぞれ使ったお金を比較してみると、スイスのユングフラウヨッホでは3万円、今回のガヴァルニ―であれば3千円である。宿泊の有無と、鉄道の利用の有無が効いてきている。それに、スイスの方が子供から高齢者までより幅広い層を受け入れることができる。

もちろん、スイスのように儲ける仕組みづくりは一朝一夕ではできない。しかし、自然が美しいピレネー山脈だったからこそ、個人的にはもっと頑張れ!とエールを送りたい。