やまんばと

2018年6月からスイス・ジュネーブ在住。ヨーロッパの田舎、日本の地方をキーワードに発信。

スペイン・リオハのワイナリー 家族の一員になる1晩

フランスとスペインの間にまたがるピレネー山脈を越え、サン・セバスチャンからマドリードに車で向かう道中、ワインで有名なリオハ(La Rioja)に立ち寄った。

スペインの代表品種、テンプラニーリョが多く生産され、約90%が赤ワイン。リオハのワインは、19世紀、ボルドーがフィロキセラ(ぶどうをダメにしてしまうアブラムシ)で甚大な被害を受けた際に、ボルドーの生産者がリオハに移り、その醸造技術が伝わった結果、質が高くなったとされている。スペイン王室御用達のワインを製造するワイナリーがあるのもこの地である。

サンセバスチャンから車をしばらく走らせると、緑で覆われた大地は、赤土とワイン畑の景色に変わっていく。ポルトガルでのファームステイが良かったこともあり、ワイナリーに泊まれないかと探した結果行きついた場所が、Bodegas Puelles。オーナーの自宅と一体化したワイナリー・ホテルになっている。スペインの日差しの強い夏にはありがたいプールと、ワイン畑を見下ろせる部屋と周りの静けさがとても良い。

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ワイナリーの外観と部屋から見下ろすブドウ畑。木が少し邪魔。

夕方からオーナーによるワイナリー・ツアーがあり、他の宿泊客と参加した。スペイン訛りの強い英語でパワフルに話し続けるオーナーはとても気のいいオジサン。発酵から熟成、ボトリングまでのプロセスを見せてもらい、ホテルのすぐ裏にあるワイン畑にも連れて行ってくれた。このワイン畑はホテルの部屋の窓からも見下ろすことができる。最後はテイスティング・ルームへ。

この一連の流れは、他のワイナリー・ツアーでも体験できることだ。このワイナリーが何より良かったのは抜群のアットホームさである。大きなワイナリーであれば雇われた人が大きなグループに対して説明することが多いが、ここでは最初から最後までオーナーが付きっ切りで熱心に話してくれた。いくつかワイナリーを訪問すると、プロセスの通り一辺倒の説明には新味がなくなってくる。このツアーは、オーナーの個性やパッションが伝わってきたし、人数も少なく、時間のプレッシャーも感じなかったので、好きなことを自由に質問できた。

更に、テイスティングにはオーナー家族(おばあちゃんと奥さんと息子)も参加し、会話を楽しみながら皆で一緒にワインを楽しんだ。とは言っても、オーナーしか英語が話せないので、スペイン語と英語が賑やかに交わされる。試飲も大盤振る舞いで、私たちと他の宿泊客の計4人のために、主なラインナップ6本ほど開け、最後まで飲ませてもらった。なお、オーナーは日本にも何回か仕事で行ったことがあるとのことで、日本トークでも盛り上がった。勝沼のワイナリーを絶賛していたのは印象的だった。

このワイナリーはどうやら少し有名らしいことを、一緒にツアーに参加したイギリス人老夫婦から学んだ。私たちは、泊まれるリオハのワイナリーをグーグルで探した結果行きついたのだが、彼らはテレグラフ紙(イギリスで一番発行部数の多い新聞)で1年前に取り上げられた記事を読んで、すぐに申し込んだのだという。

テレグラフ紙は10中8の評価をつけ、この中でも家族の一員として迎えられることをハイライトとして書いている。場所、スタイル、サービス・設備、部屋、食事等の項目でポイントをつけているので、気になる人は是非読んでもらいたい。オーナー曰く、あくまで仕事の主はワイン造りなので、ホテルも大手予約サイトを使って手を広げることはしていないという。実際、Booking.comやHotels.com等大きな予約サイトでは見つからず、ワイナリーのサイトから直接申し込むことが必要だ。

翌朝、気に入ったワインをまとめ買いし、車に積んだ。今もスイスの家で楽しめている。スペインのワインは、チリやアルゼンチンの新世界のワインや王道フランスワインと比べると、日本ではまだまだメジャーではないが、価格も手ごろで飲みやすいワインが多いので、もっと増えると良いと個人的には思う。

朝ご飯もささやかながら充実しており、小さなキッチンで出来立ての卵料理とパン・コン・トマテ(バゲットの上にトマトとニンニク、オリーブオイルを乗せたもの)はとてもおいしかった。

経済的合理性の名の下に画一化が色々なところで色々な形で進む世界だからこそ、そうでない要素の価値は大きい。ワインと家族と、オーナーの大事にするものを家族の一員のようにたっぷり体験できた1泊2日であった。