やまんばと

2018年6月からスイス・ジュネーブ在住。ヨーロッパの田舎、日本の地方をキーワードに発信。

テント泊登山と適切なレベル感のすすめ~三大急登の黒戸尾根から~

三密回避ということもあり、今回初めてテントを担いでの登山を決行した。行先は甲斐駒ヶ岳。宿泊は標高2400メートル地点にある甲斐駒ヶ岳の七丈小屋である。

これまで登山をするたびに、二回り大きなサックを背負って登る人たちを憧れと半ば自分には無理だという諦めの眼差しで見ていた。テント泊が意味するものは、シンプルに重い荷物を背負うことだからである。

まず、単純にテント分の重さ。これには、テントだけでなく、シュラフマットレスなどのテントで寝ることでの付属品も含まれる。

それから、食事。これが意外と効いてくる。テント泊だと山小屋の食事をつけることはできないので、朝夕二食分の食材の重さが加わる。

防寒着も少し余分に持っていくと、通常の荷物にプラス2キロくらいになってしまうのである。

そんな重い荷物をものともせず登っていく人たちは純粋にかっこよかった。

 最高のご褒美

サックの重さを上回るご褒美がテント泊にはあった。

何よりも自然との一体感。山と自分の空間を隔てるのは、テントの薄い布で、自然の音、山の空気感がテントの中にいてもそのまま感じられる。これは、山小屋では得られない感覚だ。

そんな中で、遠くに見える山々と夕日を見ながら作り食べるご飯は格別でビールのおいしさもひとしお。七丈小屋のテント場からは鳳凰三山がきれいに見えた。また、満点の星空も美しい。朝は空が白んでくるころには目が覚め、登り始める朝日と共にご飯を食べる。

あとは、サバイバル感。なんでも便利な都会では実感できない、自分の力で生きているという感覚。多少の不便さが非日常となって新鮮に感じられる。

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テント場から見下ろす山の景色(左)と甲斐駒ヶ岳の絶景ポイント・剣と富士山(右)

苦い教訓

またテントを背負って登りたいな、と思う一方で、テント泊で登る山と、普通に登る山でのレベルの調整が必要、という当たり前のことも学んだ。

私が今回このレベルアップの場所に選んだのが、よりによって甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根。

甲斐駒ヶ岳を登るルートはいろいろあるのだが、中でもこの「黒戸尾根」は、登山好きの方ならご存じかもしれないが、日本の三大急登(文字通り、登りが急峻)の一つに数えられる。高低差2200メートルを1泊2日で登る行程となった。

選んだ理由は半ば消去法で、①都内からの移動時間が比較的短いこと(2時間半ほどで登山口に到着)、②予約がとれたこと(難易度がもう少し低い山はコロナでそもそもテント受付を行っていなかったり、満室だったりした)、③まだ登っていない山で、夏に登るのに適当な高山であること(テント泊初心者におすすめの山は低山が多く夏場は暑い)、といった理由である。

登山記を読んでいる限りは技術的にも体力的にも大丈夫だろうと高を括っていたが、初めてのテント泊先としては難易度が高すぎた。重い荷物を背負うには総距離が長いうえに、標高差があまりにもきつかったのである。所々あるほぼ垂直な岩壁にある鎖場やはしごも、重い荷物を背負っての昇り降りは純粋に恐さもあった。

結果として、2日目の最後の2時間は足がほとんど動かなくなり、コースタイムも普段なら0.7倍くらいで行けるところ、通常かそれより遅いくらいに落ちてしまった。テントだと片づけにも純粋に時間もかかる。

更に、次の平日1週間は筋肉痛が全く治らず、怪我人さながら、階段の昇り降りを徹底的に避け、オフィスの椅子での立ち上がりには、手に力を入れて体を起こすありさまになってしまった。

おそらく、最もハードルの高いテント泊先の一つだったのではないかと思う。。

 

その他、備忘録的に、テント泊の際の必須の持ち物は、耳栓。テントは空間の仕切りにはなるものの、防音効果は皆無。私が宿泊したときは、夜はさながらいびきのコーラスで、入眠には少し苦労した。

また、女性一人で行く際は場所も選んだ方が良いように思う。七丈小屋のテント場はよく整備されていたが、テント場の規模は小さく(二つのサイト分かれていて、私の泊まった区画は全部で7はりくらい)で、小屋までは普通の登山ルートを5分ほど歩き、はしごも通る必要があるなど、距離もあった。私自身は連れと二人だったが、何もないことが9割9分だとは思いつつ、周囲が男性ばかりで防犯対策もあまりとれないテントに女性一人というのは、想像すると少し怖さも感じた。