やまんばと

2018年6月からスイス・ジュネーブ在住。ヨーロッパの田舎、日本の地方をキーワードに発信。

住民150人の「最も美しい村」たち

この週末は、シャトーシャロン(Chateau Chalon)とボーム・レ・メッシュー(Baume-les-Messieurs)という村を訪れた。フランス南東部のジュラ(Jura)地方にある、最も美しい村である。ジュラ地方は、スイスとの国境付近に広がり、ワイン生産でもよく知られる。スイスから行くと、ジュラ山脈を越えて行くのが一番早いのだが、ヘアピンカーブの連続でなかなか大変だった。まずは、村の紹介から。

シャトーシャロン

ブドウ畑の上にそびえたつ崖の上にある村だ。ここは、ジュラのワインの産地として有名な場所らしい。ジュラ・ワインとして良く知られるのが、黄色のワイン。白ワインなのに6年間も樽で空気に触れさせながら熟成させることでこの色になるらしい。ブドウもサヴァニャン(savagnin)という固有種を使っており、ユニークな風味がある。シャトーシャロンAOC(基準を満たしたトップ・ワインにのみ与えられる呼称)はこのサヴァニャンの黄ワインにのみ認められているのだ。

自ずから、村の観光資源もワイン。ワイナリーがいくつか開いていて、ふらっと立ち寄って試飲させてもらい、気に入ったワインを何本か購入。この気軽さはアルザスを彷彿させる。黄色ワインは個人的にはアルコールの風味が強く苦手だったので、Vin de Pailleというデザートワインを購入した。ブドウをわらの上で乾燥させて作るワインで、これもジュラで有名らしい。

 

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村の様子とワイン試飲。右から三番目の横に太いボトルがジュラに特徴的なもの。
ボーム・レ・メッシュー

シャトーシャロンから車を走らせること10分弱。村の看板と共に目に飛び込むのが、高さ200メートルのそびえ立つ岩壁だ。そこからもう少し先に行くと、集落に辿り着く。崖の上のシャトーシャロンから、一気に下に降りてきた感覚に陥る。村自体はこれまで訪れた最も美しい村の中で一番小さく、開いているお店はレストランが2軒。あとは、中世からの修道院があり、村の一番高いところに立っている。

個人的に、一番良かったのは、集落があるところから車で5分ほどの場所にある滝。ジブリの世界観にはまる空間だった。緑の間を小さな滝がいくつもに分かれて落ちていく様子はとても神秘的で、癒された。

 

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村の様子と小さな滝
あともう一歩の「最も美しい村」

ワインも楽しめて、自然にも癒されて、楽しい日帰り旅行だった。しかし、これまで行った最も美しい村たちと比べると、正直これが本当に美しい村なのかと思ってしまったのも事実である。そう感じた理由を考えてみた。

村の活気のなさ

天気に恵まれなかったのもあるのかもしれないが、異様に静かだった。外を歩いているのは、決して多くない観光客のみ。聞こえてくるのがフランス語ばかりだったので、恐らくフランス人、かつ、年齢層も高め。地元の人もたまに見かけたが、あまりに人がいないので、ダーツの旅の第一村人発見の感覚である。開いているお店も、シャトーシャロンはワイナリーとレストランがそれぞれ数軒、バームはレストラン2件。何となく、さびれているという印象を受けてしまった。

少し残念な景観

もちろん、写真で見るときの綺麗さはあり、部分ごとに見る景色は綺麗だった。しかし、歩いていて心が弾む景色ではなかった。こう感じたのは、たぶん車道のせいだ。日本でも多いが、車道を中心に建物が並んでいて、これまでの村々でできていた石畳の上を歩いて建物との一体感を楽しむというのができなかった。コンクリの道の上を歩いていると車がビュンビュン通り、路駐も多い。なんだかな、と思ってしまった。空間の一体感の大切さがよく分かった。実際、イタリアから始まったスローシティ運動では、加盟自治体では車両の進入を禁止したりしている。 

There's no silver bullet

最も美しい村それ自体は、地域活性化の特効薬にはならない。改めてこれを実感することになった。前回の記事で紹介した3つの美しい村では、人口が1,000人以上で増加傾向にあるのに対し、今回訪れた2つの村は人口規模が150前後と小さい上に減少傾向にある。活性化の指標は住民の数だけではないが、人口が減っていることは地域経済がうまくいっているどうかの一つの目安にはなるだろう。

村の規模の大小が、村の活気や景観を維持する上での資本に影響を与える部分はあると思うが、比較したときに、この村々がハンデを負っている一つの要素として、アクセスの悪さはあると思う。大きな観光拠点からのアクセスが悪いのである。フランスの拠点になりそうな、リヨンは車で約2時間、ディジョンは1時間強。公共交通機関で行く方法はなく、車が必ず必要。スイスからだと更に日本でいうところの下道しかなく、ほとんどが山道だ。相当ジュラワインが好きか、モノ好きでないと観光客はなかなか行こうと思わない場所なのだと思う。

ついでで行くくらいの観光資源しかない村に、ついででの行きやすさがない場合、この最も美しい村というラベルによる観光客増加効果はあまり期待できないのではないだろうか。もちろんシャトーシャロンの場合は、ワインという観光以外の地域経済の基盤があるので、それで構わないということなのかもしれない。ボーム・レ・メッシューの方は、観光が主な産業とのことだったので、少し心もとないと思ってしまった。もちろん一つの手段として、美しい村連合に加盟するということはあり得ると思うが、アクセスの悪さを上回るだけの観光資源がないと厳しいと感じた。

同時に、こんな小さな自治体にまで浸透している、最も美しい村の取組からは学べることがあるだろう。