やまんばと

2018年6月からスイス・ジュネーブ在住。ヨーロッパの田舎、日本の地方をキーワードに発信。

スペインのトマト祭りに参加してみた

8月29日、ラ・トマティーナ(La Tomatina)と呼ばれる、スペインのバレンシア州にある小さな町ブニョールで開催される、年一回のお祭りに参加した。日本のバラエティ番組でも度々取り上げられる、あのトマトを投げ合う祭りである。聞いていたとおり、本当にクレイジー。そして、最高に楽しかった。

祭りが始まってから終わるまで

まずは、この祭りがどのようなものだったかのご紹介。

会場外にはフード・ドリンクの売り場があり、景気づけに連れと一杯。

開始時間の1時間ほど前に会場となる通りに入ると、のんびりできたのもつかの間。住民が住居の上からバケツやホースで水をかけてくる。更に、通りにも給水所とバケツ、水鉄砲があり、横からの不意打ちもたくさん。目的の役所前に来る頃には全身この水でびっしょり。気温も高くなく、じっとしていると寒い。

この役所前の広場では、トマティーナ開始前まで、石鹸で塗られた棒を登っててっぺんにある生ハムを取るというイベントが繰り広げられていた。一人だけではあまりにも滑りやすいので恐らく登り切れないようになっていて、いかに協力するかが鍵のように見えた。うまく他の人が支えになって取れそうになっては、誰かが引きずりおろして崩壊、、のサイクルを何度も見て、国際協力の難しさを学ぶ。

そして、開始時間の11時!

ホイッスルの合図と共に、トマトを大量に積んだトラックが入ってくる。トラックがギリギリ通れる通りなので、スタッフの人達が道の真ん中にいる参加者を轢かれないように端に押しまくる。

「トマトはつぶしてから投げる」のお祭りルールは、トラックの上から降ってくる(スタッフが投げてくる)トマトには適用されないらしく、かなり痛かった。トラックが通り過ぎると、トマトの投げ合い戦争。誰かれ構わず、トマトをつぶして投げまくる。このトマトを積んだトラックが何と6台!

目を守るためにつけていたゴーグルも段々と曇ってきて、最後は本当に何も見えないまま、ひたすらトマトを投げまくり、約1時間。

終了後、道はトマトジュースの川と化し、歩く参加者はトマトまみれ。住民が上から水をかけてくれたりして、何とか有料のシャワー所は使わずに体を綺麗にしてバスに戻ることができた。何かをやり切った、程よい疲労感と共に、ブニョールを町を後にした。

トマト祭り地域活性化

祭りの起源

このトマティーナ、1945年以来毎年続けられているが、起源は諸説あるらしく、以下Wikipediaから引用。

起源については、野菜売りのスタンド前での喧嘩でトマトを投げ合った、住人同士での階級闘争、パレードでトマトが一斉に投げられた、町政に不満を持つ住人が、町の祝賀会で町の議員に向けてトマトを投げつけた、戦争が終わってこんなに真っ赤になっても死なないぞというメッセージなどがある。

 一よそ者参加者としては、大変楽しめるお祭りだったが、地域活性化の観点から見ると、このお祭りはどのように評価できるだろうか。

唯一無二の参加型フェスティバルで世界から参加者を獲得

参加者は毎年22,000人程度で、このうち17,000人が参加費12ユーロを払って参加するブニョール外からの参加者である。残りの5,000人分は無料で地域住民の枠として残されている。ブニョール市の人口は約9,500人なので、市の人口の倍の数の人が市外から訪れていることになる。正確な国籍の内訳は分からないが、インド人、日本人、英国人がパッと見た感じ多い印象を受けた。

世界最大のフードファイト、La Tomatina。英語での情報を見るとよくこのように形容されている。これに、地域住民であるかどうかに関わらず皆平等に参加できて盛り上げることができるというのが、世界から多くの参加者を集めている理由なのだと思う。

海外の参加者からすると、スペインの主要農産品であるトマトに地域の独自性を見出せることはさることながら、それを知らない人たちと投げ合うというのはなかなか世界を見渡してもできない経験である。フードファイトと言う意味では、イタリアにもオレンジ祭りなるものがあるようだが、地域住民があくまでも主体で、衣装代も別途必要等、トマティーナ以上に海外から旅行者として参加するハードルは高そうだった。

 La Tomatinaによる市の歳入増加と国際的な知名度向上

かつては参加無料だったというトマティーナも、参加者の増加を受け、安全確保と収支改善のために、2013年から参加人数を制限し、チケット制が導入された。

投げられるトマトは145トンという途方もない量だが、Extremaduraという地域から売り物にならないトマティーナ専用のトマトを安価で買い取っているとのこと。警備や清掃にかかる費用はあるものの、トマトは普通の食用トマトでもキロ当たり1ユーロもしないことを考えると、参加費は市の財政の足しにはなりそうである。

また、トマト祭りの町として、バレンシア郊外の小さな町が国際的なスポットライトを浴びることにもなった。例えば、今年のトマティーナの模様は、英国の主要紙(Guardian, Independent)やハフィントンポスト、Euro Newsに取り上げられている。ちなみに、ブニョールで唯一観光名所でヒットするのは、ムーア人がかつて12世紀に建てた城くらいであり、これも周りを見渡せば別に珍しくはない。バレンシア郊外の農業が中心の小さな町は、この祭りがなければ、海外からあれだけの観光客が訪れることはなかっただろう。

 祭りの地域活性化への効果は限定的?

トマト祭りをいかに地域としての収入につなげていくか、という観点から見ると、トマト祭りはあくまでトマト祭りで完結していた感が否めない。トマト祭りの日のみの観光客を想定した体制だった。

本来、トマト祭り前後で宿泊してホテルでシャワーをゆっくり浴びて、その日の夜はブニョール市でご飯を食べて土産を買って少し観光、というような旅程も可能なはずである。しかし、多くの参加者は、当日朝早くにツアーバス又は電車でブニョール市に到着し、その日の午後には足早にバスに戻り、バレンシアマドリッド等次の観光目的地へと移動する旅程となっているようだった。

旅行者がお金を使うはずの、ホテル、レストラン、土産物屋はほとんどない。レストランは、トマトで汚されたくないという現実的な理由で閉めていたというのもあると思うが、地元の人がパエリヤや飲み物を家の前で売っていたりしているのが主だった。オリーブや果物類が特産品のようだが、例えばそれらを見れるようなお店もなかった。

そもそも、ブニョール市の主要産業は農業工業と別にあり、活性化のニーズがないというだけなのかもしれない。しかし、せっかくトマト祭りで得た収入や知名度を生かして、トマト祭り以外でも外から人をひきつけたり、あるいはトマト祭りで訪れた人にもっとお金を落としてもらう仕組み(ファームステイや特産品販売コーナーの設置等)は工夫ができるのかもしれない。

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上から降ってくるトマトとトマトジュースの川